はじめに
「別居を検討しているが、生活費が不安」
「夫の収入で生活していたので、別居後の生活維持がとても大変」
といったご相談をよく頂きます。
また、「相手が勝手に家を出て行ったのに生活費を払わないといけないのか?」
「住宅ローンとは別に生活費も払わないといけないのか?」
「持病をお持ちで医療費を支払っていけるのか不安だけど、そういったことまで踏まえた生活費を支払ってもらえるのか?
」といったご相談もよく頂きます。
ここでいう「生活費」は、法律上「婚姻費用」と呼ばれ、離婚の前段階において大きく問題となります。
婚姻費用とは
「婚姻費用」とは、日常の生活費、子供の養育費、交際費など婚姻から生じる費用のことです。夫婦として結婚生活をする上で通常想定される出費一切が含まれており、その具体的な金額は、夫婦双方の所得をベースにして決められるのが通常です。
離婚の協議中、調停中、訴訟中であったとしても、夫婦はお互いが同程度の生活を続けられるように、お互いを扶養する義務(生活保持義務)があります。その結果、どちらか一方の収入が少ない場合には、収入が多い側が少ない側の生活費を渡してくれるように要求する権利があり、これを婚姻費用分担請求権と言います。
その為、基本的に離婚が決着するまでは、婚姻費用として生活費をお互いに分担しなければなりません。
婚姻費用の算定方法
一般的には、養育費と同様、家庭裁判所の算定表に従って計算することになります。具体的には以下のような事情をもとに判断されています。
① 婚姻費用を支払う側の収入
② 婚姻費用の支払を受ける側の収入
③ 子供の人数
④ 子供の年齢(15歳未満か、15歳以上か)
婚姻費用を多くもらうには?
⑴ 相手の収入を正確に把握する
婚姻費用は給与所得者であれば源泉徴収票や給与明細、事業所得者であれば確定申告書などを資料として判断されます。しかし、実際にはこれらの資料が提出されない場合もあり、正確な数値を計算することが困難となってしまうケースも見受けられます。
そのため、婚姻費用のことを考えるにあたっては、相手(配偶者)の収入が分かるような資料のコピーを取っておくなど、収入について正確に把握するように努めましょう。
婚姻費用は、夫婦が同居している場合でも請求することができるものですが、別居した方が金額が高額になります。
⑵ 夫婦で話し合いをする
婚姻費用は夫婦のそれぞれの収入に応じて額が算出されるため、算定表を大きく超える額の支払を認めることにつき、裁判所も消極的な姿勢であるといわれています。
しかし、婚姻費用については、調停における話し合いを通じて解決できる場合もあり、夫婦間で取り決めができれば、算定表よりも高い額の支払を受けられる場合もあります。
相手の理解を得られるよう、より多くの婚姻費用が必要となる事情を具体的に説明しましょう。その際には、今後お金が必要になるための事情を証拠として提出できるように準備をしておきましょう。
離婚すると婚姻費用はどうなるの?
婚姻費用は、文字通り婚姻関係にある夫婦間において発生する義務であるため、離婚をした後では婚姻費用を法的根拠に基づいて請求することはできません。
もっとも、夫婦間の合意によって一定期間生活費を支払うことを決められたり、扶養的財産分与という形でお金を払ってもらえる場合もあります。
妻の収入が多い場合、婚姻費用はどうなるのか?
婚姻費用については、夫だから支払い義務がある、妻だから支払いを得ることができるといったものではありません。自らが監護している未成年者の存在及び双方の収入状況によって変動してくることになります。
したがって、妻の方が収入の多い場合は、妻から夫に対して婚姻費用を支払う可能性も高くなります(お子さんの監護状況が考慮要素となります)。
婚姻費用分担請求の流れ
多くの場合、相手方に任意の支払いを促し、これが功を奏さない場合は、婚姻費用分担調停を申立てることになります。もっとも、実務慣行では多くの場合、請求時から婚姻費用の支払い義務が生じるとしており、書面等で請求時期を明確にする必要があります。
これを行った上で、任意の支払いが望めない場合は、調停等で裁判所の関与の下、婚姻費用の分担額を定めることになります。
婚姻費用分担調停が成立した場合、調停調書(調停の内容が記載されたもの)は、訴訟における判決と同様の法的効力を有することとなります。
判決同様の法的効力の中で特に重要なものとして、強制執行ができる、という点が挙げられます。
調停で約束した養育費の支払いを相手が行わないような場合には、調停調書をもって強制執行を行い、相手の給料や不動産を差し押さえたりすることができます。
婚姻費用分担調停を起こした場合のデメリット
あまりデメリットは想定できませんが、収入の優劣が曖昧で収入額について、精査の結果、相手方の方が低い場合には、自らが婚姻費用を支払わなければならないことが手続の中で判明してしまう可能性があります。
したがって、収入状況について十分精査の上手続を進める必要があります。
弁護士なしでも婚姻費用分担請求を起こすことはできるのか?
可能か否かであれば、もちろん問題なく起こすことができます。もっとも、いかなる時期に請求するか、いかなる金額を請求するか、婚姻費用算定上の収入をいくらとみるかなど様々な判断事項がありますので、依頼の是非はともかく、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
婚姻費用を請求する際に弁護士に依頼するメリット
婚姻費用は法律上の問題のみならず、複雑な事実関係を正確に把握し、整理していくことが不可欠です。
・そもそもベースとなる収入は本当に正しいのでしょうか?
・住宅ローンの負担部分はどのように取り扱うのが適切なのでしょうか?
・未払い部分はいつまで遡って支払われるのでしょうか?
いずれも法律に明確な規定が無く、個別的な事情に基づいて判断されることになります。
調停はあくまでお話合いの場ですので、弁護士の交渉力によって結果が左右されかねません。
いわゆる審判という形で裁判官が判断する場合は、なおさら弁護士の専門性が重要になってきます。
婚姻費用は、日々の生活に関わる非常に重要な権利です。請求する側も、請求される側も様々な思いがあるかと思います。当事務所は可能な限り、そのような皆様の思いに沿う形で共に闘っていきます。
婚姻費用Q&A
婚姻費用の解決事例
NO | 性別 | 子ども | 依頼者職業 | 相手方職業 | 手続き |
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1 | 【01】専業主婦Aさんのケース ~多額の婚姻費用の支払が約束された事例~ | ||||
女 | あり | 専業主婦 | 医師 | 調停 | |
NO | 性別 | 子ども | 依頼者職業 | 相手方職業 | 手続き |
2 | 【02】専業主婦Bさんのケース ~数か月滞納された婚姻費用の支払が開始された事例~ | ||||
女 | あり | 専業主婦 | 自営業 | 調停 | |
NO | 性別 | 子ども | 依頼者職業 | 相手方職業 | 手続き |
3 | 【03】パート社員Cさんのケース ~未払い婚姻費用の支払が認められた事例~ | ||||
女 | あり | パート社員 | 会社員 | 審判 | |
NO | 性別 | 子ども | 依頼者職業 | 相手方職業 | 手続き |
4 | 【04】公務員Dさんのケース ~相手の婚姻費用の請求額を10万円も減額させた事例~ | ||||
男 | あり | 公務員 | 会社員 | 審判 | |
NO | 性別 | 子ども | 依頼者職業 | 相手方職業 | 手続き |
5 | 【05】会社員Eさんのケース ~相手の婚姻費用の請求額を大幅に減額させた事例~ | ||||
男 | あり (ただし未成年はなし) | 会社員 | パート | 審判 |