離婚調停は弁護士なしで対応することはできるか
離婚調停に際して弁護士に依頼すること自体は不可欠ではありません。
この点、日本弁護士連合会が発表している資料によれば、年々離婚調停で代理人弁護士が関与する割合は増えてきており、2019年には離婚調停(正確には夫婦関係調整調停)の全事件数の53.7%で代理人弁護士の関与があるとのことです。しかし、裏を返せば、約半数弱の方々は未だに離婚調停に際して代理人弁護士の関与が無いということです。ご自身で離婚調停手続に対応し、最終的に何らかの合意を取り付けること自体は決して難しいことではありません。
本当にそれで良いのでしょうか。
もちろん、代理人弁護士に依頼する場合は、いわゆる弁護士費用が発生する為、全ての件において当然に弁護士を依頼すれば良いというわけではありません。弁護士に依頼せず、ご自身で進めた方が費用対効果として高い場合もございます。
そうだとしても、まずは、一般的な離婚調停の流れはもちろん、離婚調停の落とし穴や離婚調停を弁護士に依頼するメリットをきちんと理解した上で、ご自身で対応されるか否かについて最終的に判断されるのが宜しいのではないでしょうか。
本稿では、皆様が離婚調停に対応されるに際して、弁護士に依頼した方が良いか否かについて少しでも正確な判断ができるよう、その判断材料をご提供させていただきます。
離婚調停の流れ
1. 離婚調停の申し立て
離婚調停を申し立てるにあたっては、まず離婚調停の申立書を作成する必要があります。申立書自体は全国共通の家庭裁判所の書式が存在しており、家庭裁判所で受領することができますし、裁判所のホームページ等でダウンロードすることも可能です。
現在、多くの弁護士も、申立てに際してはこの書式を利用することが殆どの為、弁護士に依頼するか否かで大きな違いはありません。
もっとも、申立書を作成するにあたっては、記入すべき事項が多岐にわたっています。離婚や親権についての記載はもちろんですが、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割についても請求するか否かについて記載する必要があります。特に、養育費、財産分与、慰謝料といったお金の請求については、具体的な請求金額を記載する場合と、「相当額」にチェックを入れる場合がありますが、そもそも「相当額」って何なんでしょう。
その他にも、離婚調停を申し立てるに至った経緯や理由等についても記載する必要がありますが、これらはどの程度詳細に記載する必要があるのでしょうか。また、これらの記載が今後の調停、あるいは仮に調停不成立となり、その後離婚訴訟に至った際にどのような影響があるのでしょうか。
以上の点についてしっかりと検討しながら離婚調停の申立書を作成し、裁判所に提出することから始まります。
2. 期日調整
離婚申立書を提出した後、概ね1、2週間程度を目途に家庭裁判所で内容を審査され、特段訂正事項、追完事項等が無ければ事件番号が付けられ、正式に初回期日の調整に入ります。
家庭裁判所の混雑状況等にもよりますが、概ね期日調整の連絡がきた日から1か月後から2か月後を目途に期日が調整されることとなります。
なお、離婚調停は原則として相手方の住所地が管轄となります。同居中や近所に別居の場合であれば問題ありませんが、別居に伴って遠方に転居された場合、どのようにして離婚調停を進めていくかが問題となります。
3. 初回期日から調停成立まで
初回の期日は、主に調停委員を通じて双方の言い分を確認し、双方の言い分に食い違いがある部分(いわゆる争点)を明らかにする作業が中心となります。争点が明らかになっていく中で、準備すべき検討事項や資料が発生していきますので、次回期日までにそれぞれが準備していくこととなります。
何度かの期日を交わしていく中で、双方の言い分の擦り合わせをしていき、最終的に全ての争点において双方の言い分が一致するに至ったときは、調停成立となり、裁判官(調停官)より調停条項を読み上げ、双方が最終的な承諾の意思表示をした段階で調停が成立となります(以降の翻意は原則としてできません。)。
逆に合意に至らなかったときは、最終的に調停は不成立となり、あとは離婚訴訟の中で再度争っていかざるを得なくなります。
離婚調停の落とし穴~調停委員はあなたの味方ではない~
離婚調停で代理人弁護士をしている際によく耳にする言葉として「調停委員が相手の味方ばかりしているような気がする。」、「自分ばかりが譲っているような気がする。」というものがあります。
そもそも、調停委員は、あくまで公平中立な立場として調停に参加しています。「公平中立な立場」というのは、つまり「どちらの味方でもない」ということです。
離婚調停に至る夫婦であれば、当然、双方の言い分の隔たりはそれなりに大きいのが一般的です(そもそも最初から隔たりが大きくないのであれば調停までに至らず、当事者間の協議で合意が成立します。)。そのような中で、調停委員の役割は、双方の言い分を聞いていく中で、何とか双方に歩み寄りを迫り、合意点を見出していく点にあります。その為、双方に対して、当初の言い分に対して一定の譲歩ができないかと迫ってくる為、当事者の方からすると、「相手の味方ばかりしている。」、「自分ばかりが譲っているような気がする。」と思われるのかもしれません(実際には、相手の方も同様に「相手の味方ばかりしている。」、「自分ばかりが譲っているような気がする」と感じられていることが多いです。)。
この点、調停委員が「双方に歩み寄りを迫る」という点が、法律的な知識や相場に裏付けられた中で、例えば、裁判であっても概ね同様の結論になるという点を前提にお話合いの範囲で一定の幅のある解決が目指されるのであれば問題ございません。しかし、そもそも調停員自体は弁護士や裁判官等の法律の専門家ではありません。もちろん、一部の調停委員は専門家でないながらに日々勉強され、一定の知識や経験を持たれている方もいらっしゃいますが、必ずしもそのような調停委員が全てというわけではありません。その為、調停委員の中には、あまり法律的な知識や経験に基づかず、「単に双方の言い分の間を取って」といった案で双方に対して歩み寄りを迫ってくることも少なくありません。
このような自体が離婚調停では度々頻繁する為、法律の専門家である弁護士、特に離婚案件の知識や経験が豊富な弁護士に依頼するメリットがあるのです。
離婚調停を弁護士に依頼するメリット
1. 期日出頭・期日対応を全て弁護士に一任
離婚調停は家庭裁判所で実施されます。当然、期日は平日の午前9時30分から午後5時の間で設定されます。弁護士に依頼されていない場合、当然、ご自身で全ての期日に対応していただく必要があります。平日、お仕事をされている方や、お子様の監護・養育をされている方にとって、期日に毎回出頭すること自体が大きな負担となりかねません。
弁護士に依頼した場合、弁護士が事前にご依頼者の方から委任状を頂き、家庭裁判所に提出いたします。その結果、基本的に手続自体は弁護士のみでも対応が可能です。法律上、離婚成立時だけはご本人の出頭が必要とされていますが、遠方の方の場合は「調停に代わる審判」という方法を利用することで出頭せずに正式に離婚を成立させることが可能な場合もあります(以前は裁判官がこの方法を取ることに消極的なケースもありましたが、新型コロナウイルス渦を経て、現在では積極的にこの方法が取られている印象があります。)。
2. 法律的知識、相場感覚、調停経験
離婚調停において一番必要なことは、法律的知識と相場感覚です。離婚調停はあくまでお話合いの場ですので、話し合い自体はある程度幅のある形で進んでいきます。先に述べたとおり、調停委員はあくまで公平中立な立場であって、あなたの味方ではありません。そのような中で、法律的知識や相場感覚を持っていないと何となく提示された調停委員会からの和解案によく分からず応じてしまうことになりかねません。
殆どの方は離婚調停に対応されるのは初めての方ばかりだと思われます。それどころか、裁判所に来たこと自体が初めてという方も多いでしょう。そのような中、家庭裁判所の調停室という密室において、調停委員という何だかよく分からない方々(もちろん、調停委員自体はしっかりとした方ばかりですが、初めて調停に立ち会う方からすれば、どのような方かもよく分からないですよね。)たちより、もう少し歩み寄れないかと事実上の譲歩を迫られます。ご自身で対応されている場合、何となく「自分の味方ではないな。」という感覚がある中で、調停員から繰り返し説得をされると、次第に不安になりますし、何より、疲れてしまって「もうこの辺でいいや。」という感覚になることが少なくありません。
その結果、本来であれば獲得できたはずのご自身の権利を安易に手放してしまうことになりません。実際、裁判官(調停官)の立ち合いのもと、調停条項を確認し、最終の承諾意思を表明した後は、どれほど後から不当な内容だったと知っても、これをやり直すことは基本的にできません。
弁護士は、法律的知識や相場感覚に基づき、調停委員の提案があなたにとって適切か否かを常に判断し、アドバイスができます。何より、調停経験豊富な弁護士であれば、むしろ調停委員をうまく味方につけ、相手方の方に対して更なる譲歩を引き出させるような交渉をしていくことができます。
3. 書類作成を全て弁護士に一任
離婚調停手続を進めていく中で、色々な書面を作成・提出しなければいけないケースが殆どです。
まず、離婚調停の申立書を適切に作成する必要があります。申立書の記載は、離婚調停にあたって相手に請求する内容を具体的に定めるものです。もちろん、離婚調停はあくまでお話合いの手続なので、必ずしも離婚裁判のように厳密な記載である必要はないですし、記載していない内容について一切話し合いができないというわけではありません。とはいえ、離婚調停でのお話合いのベースになるものですので、おざなりに記載するわけにはいきません。また、仮に離婚調停で合意に至らず、離婚訴訟に至った場合、離婚調停の申立書自体が裁判の証拠として提出される場合も多々あり、何気なく記載した内容があとで強烈に意味を持ってくる場合もあります(有利になることがあれば、致命的に不利になってしまうこともあります。)。ですので、離婚調停の申立書を作成するにあたっては、きちんと訴訟に至った場合のリスクや見通し等についても検討した上で、適切に記載する必要があります。
その後も、期日内で多くの法律的書面のやり取りを行う場合があります。特に、財産分与が多岐にわたっている場合、事実関係や財産状況を整理し、何が財産分与の対象となり、何が財産分与の対象とならないのか(特に、婚姻前の財産や実両親からの援助・贈与等が絡む場合に大きく問題となります。)、不動産や株式といった財産をどのように評価するのか、分与割合をどのように定めるべきなのか等、整理すべき事項は数多く発生します。このような内容を法的な知識や経験に基づき、適切に整理していく必要があります。
どれ程、皆様の思いが詰まった文章も、一定のルールに則って整理して提出しなければ、離婚調停の場であまり重視していただけません。
弁護士は、法的知識と経験に基づき、あなたのお気持ちとあなたの状況を、適切に書面で裁判所に伝えることができます。
4. 調停内外のやり取りも弁護士に一任
離婚調停を含む離婚のやり取りが発生した場合、夫婦に関する様々な点で調停外でも多くのやり取りが発生します。特に既に別居が開始されている場合、別居に伴う荷物のやり取りをどうするのか、別居期間中の子供との面会交流をどのように調整するのか、各種社会保険や児童手当等の手続をどうするのか等、同居中はであれば直接やり取りが容易であった事項も、別居に伴って連絡が困難となりかねません。何より、当事者間での離婚協議が困難であったような相手と、このような細かいやり取りを継続的に取り続けることが精神的にも大きな負担となりかねません。離婚調停内で協議ができれば良いのですが、離婚調停自体は通常1か月から2か月程度の間隔でしか開催されない為、急ぎの細かい事務連絡については対応が困難です。
この点、調停対応について弁護士に依頼した場合、通常、弁護士は調停外でも夫婦間で発生する細かいやり取りについて間に入ってやり取りを代理します。この点においても、皆様にとっての精神的なご負担を大きく減らし、新しい日常生活への移行へ集中することができます。
5. 婚姻費用分担請求調停の対応
離婚調停と並行して、婚姻中の夫婦の生活費の金額を定める婚姻費用分担請求調停を申し立てるケースが多くあります。婚姻費用分担請求調停は、あくまで離婚調停とは別個の手続きとなっており、仮に離婚調停が不成立となった場合も、婚姻費用分担請求調停について手続が継続し、合意に至らない場合は最終的に「審判」という手続に移行します。この点が、離婚調停と手続上、大きく異なる部分になります。
「審判」とは、婚姻費用分担請求調停及び審判の過程で提出された資料と法的主張を踏まえ、裁判官が適切な金額を決める手続であって、裁判の判決に非常に近い手続となっています。その為、単にご自身の言い分を裁判所に伝えるだけではご自身にとって有利な結論を得られるわけではなく、法律的知識と経験に基づき、適切な資料提出と法的主張を尽くすことが不可欠となります。
弁護士は、婚姻分担請求調停・審判の場面においてもあなたの言い分を裁判所に適切にお伝えする心強い味方になるかと思います。
離婚調停を弁護士に依頼しなかったことで発生するリスク
1.
離婚調停を弁護士に依頼しなかったことで発生する最大のリスクは、一度裁判官(調停官)の面前で、調停条項の読み上げを受け、承諾の意思を表明してしまったら、どれほど不適切な内容であったとしても、内容を撤回・修正することは非常に困難だという点です。
どれほど、「そういうつもりではなかった」、「そのように理解していなかった」、「後からやり直すつもりだった。」と主張したとしても家庭裁判所は「当事者同士で解決してください」というばかりです。
2.
当事務所の弁護士が対応した件で以下のような事例がありました。
婚姻費用分担請求調停の事例ですが、夫婦双方弁護士に依頼をしていませんでした。この件の特殊性は、夫が自宅を出て行く形で別居を開始し、妻が自宅に住み続けていた中で、自宅の住宅ローンは夫が支払続けていたというケースです。これ自体は珍しいケースではなく、比較的よく見受けられます。
問題は、婚姻費用分担請求調停を成立するにあたり、夫は、調停で確定した婚姻費用の月額を支払い、住宅ローンの支払い額については以降、妻が負担するものと理解していたのに対し、妻は、調停で確定した婚姻費用の月額に加え、引き続き夫が住宅ローンを支払い続けるものと理解していた点にあります。その結果、支払われるべき婚姻費用の月額について調停成立後に大きく争われることとなりました。
最終的に、妻は婚姻費用の未払い分があるものとして夫の給与を差し押さえる手続を行い、夫は、未払い婚姻費用は存在しないものとして請求異議訴訟と執行停止という手続を取ることとなりました。最終的には当該手続の中で双方が譲り合い和解が成立するに至りましたが、そもそも婚姻費用分担請求調停において住宅ローンの支払者・支払い方法について明記していればこのような争いをする必要もありませんでした。
3.
その他にも、調停内での取り決めの方法や不十分であったり、法律的知識や相場観が無かった中で安易に合意に応じた結果、後から強烈に後悔することになる方は少なくありません。
調停手続に際して、少しでもご自身にとって有利に進めたい、損をしたくない、後から揉めたくないとお思いの方は一度当事務所の弁護士にご相談ください。
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