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生活費を渡さない夫~モラハラと経済的DV

投稿日:
更新日:2024/11/01
離婚・慰謝料コラム モラハラ

経済的DVとは

ドメスティック・バイオレンス(DV)とは、配偶者や交際相手からの身体的暴力のことをいいますが、配偶者が十分な生活費を渡さないなどの経済的な圧迫行為を行うことは「経済的DV」と言われています。

内閣府が3年に1度実施している「男女間における暴力に関する調査報告書」の最新版(令和3年発表)によると「約4人に1人は配偶者から被害を受けたことがある」とされている中で、
このような配偶者からの被害の内容の3番目に「経済的圧迫」が挙げられており、
配偶者から経済的圧迫を受けたことが「何度もあった」「1、2度あった」人は女性では8.6%、男女あわせても5・9%にのぼっています。

このように内閣府の調査のなかでも、配偶者からの経済的圧迫は、男女間の暴力(DV)のひとつとして位置づけられており、配偶者から経済的DVを受けている方が相当数いらっしゃることが分かります。

モラハラと経済的DV

このような経済的DVはモラハラの一態様として行われることがあります。

モラル・ハラスメント、いわゆる「モラハラ」とは、言葉や態度によって、相手の人格を継続的に傷つけ、その苦痛や恐怖によって相手を支配し、思い通りに操ろうとする精神的な暴力のことをいいます。

夫がモラハラ加害者である場合、モラハラ夫は妻に対して、暴言を吐いたり、無視する/舌打ちをするなどの態度をとったり、妻を精神的に追いつめることによって、妻への支配を確立していきます。

モラハラ夫がこのような言動に出るのは、モラハラ夫には「相手を支配し優越感を感じたいという欲求」があるからであると言われています。

そのようなモラハラ夫の「欲求」を充足する一つの手段として、経済的DVが行われることがあります。
経済的DVによって、相手を経済的に追いつめることが、相手方から力を奪い、支配を確立する有効な手段となるためです。

モラハラ夫による経済的DVの具体例

モラハラ加害者による経済的DVとして、具体的には以下のようなことがなされます。

① 生活費を渡さない

合理的な理由がないのに必要な生活費を渡さないことは、経済的DVの典型といえます。

② 家計を厳しく管理する

生活費を渡さないことと同時に、家計を厳しくチェックして、些細な出費を無駄使いだと責めたりするといった行為がなされることもあります。

③ 仕事をさせない、制限する

経済的DVを行うモラハラ夫は、しばしば、妻が仕事をすることを阻止しようとします。
妻が仕事をして経済力をつけることは、妻に対する支配を確立したい夫にとって、不都合な事実でしかないからです

④ お金に関する暴言を吐く

モラハラ夫は、しばしば、妻の人格を傷つける発言をしますが、経済的DVとして、
家計を厳しくチェックしながら「俺が稼いだお金なんだから、俺が使って何が悪い!」などと自身の浪費を正当化したり、
妻が仕事することを阻止しておきながら「俺が養っているんだから言うとおりにしろ」などと、お金に関する暴言を吐いたりすることがあります。

⑤ モラハラ妻からの経済的DVもある

モラハラは妻からも行われることがあります。そして、モラハラ妻はしばしば夫に対して経済的DVを行います。
モラハラ妻は夫を「稼ぎが悪い」と責める一方で、自身は過度の浪費をするなどの行為に出ることがあるのです。

なお、すでにご紹介しました内閣府による調査においては、配偶者からの「経済的圧迫」の内容として「例えば『生活費を渡さない』『給料や貯金を勝手に使われる』『外で働くことを妨害される』など」が挙げられています。

夫は生活費を支払う義務がある~婚姻費用分担義務について

夫婦間には協力扶助義務があるものと定められています(民法752条)。
このことから、双方の収入や子の監護状況に応じて、夫婦の一方(義務者)は他方(権利者)に対して、婚姻費用、すなわち生活費を支払う義務があります。
妻が主婦やパートで、夫が主に家計を支えているご家庭の場合、夫は生活費を負担する義務があるのです。

それにも関わらず、夫が妻に必要な生活費を渡さない場合、妻は夫に適正な金額の婚姻費用を請求することができます。

婚姻費用の請求は、夫婦が同居中であってもすることができますが、一般的には、別居した後に、婚姻費用を請求するケースが多いといえます。

生活費を渡さない夫と離婚する方法

(1) 経済的DVの証拠

夫が必要な生活費を渡さないことは、民法上「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)として、離婚原因になる可能性があります。

もっとも、離婚を請求したとき、相手が経済的DVを否定してくる可能性もあります。
これに対して、経済的DVが行われたことの有効な証拠を残しておけば、相手方との交渉や調停などの手続きをより有利に進めることができます。

経済的DVの証拠としては、以下のようなものが考えられます。

①家計簿
②預金通帳
③生活費に関する夫とのやり取りの録音
④日記

なお、有効な証拠とするために、それぞれのケースに応じて、工夫できることや留意することがありますので、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

(2) 別居を開始する

婚姻費用を請求する場合、まず別居した後、手続きをとることが一般的であるとご説明しました。
このように別居を開始することは、離婚をするための手段にもなります。
別居して一定期間(3年ほど)が経過すると、婚姻関係が破綻したと評価され、裁判での離婚が認められるようになるからです。

いったん別居しても、再度同居するケースももちろん考えられます。
もっとも、モラハラ加害者が変わることは非常にめずらしく、多くのケースでモラハラ加害者がモラハラ行為をやめることはありません。
多くのモラハラ研究者が、モラハラ被害から脱する唯一の方法は、モラハラ加害者と物理的な距離をとることであると述べているところです。

このように、経済的DVを含めたモラハラ被害から脱するためにも、モラハラ夫と離婚するためにも、別居することは有効な手段となりますが、モラハラ被害を受けている方が別居を決意して実行するには、通常、様々なハードルがあります。

モラハラ離婚に精通した弁護士であれば、モラハラ被害者の心情を十分理解したうえで、別居の前に注意しておくべき事項をお伝えしながら、別居を実行するまでのサポートをすることができますので、生活費を渡さない夫との別居を悩まれた場合には、ぜひ一度弁護士へご相談ください。

離婚のための手続と弁護士に依頼するメリット

離婚をする代表的な方法として、協議離婚、調停離婚、裁判離婚がありますが
裁判離婚はもちろん、協議離婚、調停離婚においても、弁護士にご依頼いただくことで、よりスムーズかつ有利に手続きが進むことがございます。

協議離婚の場合、相手が同意すれば離婚することができますが、とくに相手がモラハラ加害者である場合、頑として離婚に応じない、話をはぐらかされて実質的な話合いができないといったことがよくあります。
このように当事者同士で離婚の合意ができない場合でも、交渉のプロである弁護士が間に入ることで、相手が態度を変え、協議に応じるケースがあります。

協議で離婚ができない場合、離婚調停を申し立てる必要があります。
調停は、家庭裁判所における手続きですが、調停委員が間に入った話合いであり、当事者でも対応することができます。
もっとも、貴方がなぜ離婚をしたいのか、相手にどんな問題があるのか、調停委員にも分かりやすく説明することは、意外に難しいものです。
また、調停委員や裁判官の話を理解するため、とくに調停委員会(調停委員と裁判官で構成されます)から提示される調停案がご自身に不利な内容でないかということを判断するため、さらに、できるだけご自身にとって有利な内容の調停を成立させるためには、法的知識や調停離婚を多く扱った経験が不可欠です。

このように、協議や調停の段階においても、弁護士をつけることで、よりスムーズかつ有利に手続きを進められる可能性が高まります。

弁護士にご相談を

生活費を渡さないことは経済的なDVであり、モラハラ行為にもあたる可能性があります。
生活費を渡さない夫との離婚を悩まれたときには、ぜひ、弁護士にご相談ください。

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【著者情報】


家事部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:45028)

2007年 慶應義塾大学法学部 卒業

2009年 慶應義塾大学法科大学院法務研究科 修了

2010年に司法試験に合格し、東京都内の法律事務所を経て、2014年より弁護士法人グレイスにて勤務

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