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【38話】もういちど二人で

投稿日:
更新日:2024/11/01
小説版

空港からの帰り、父の車の中での私の様子があまりにもおかしかったため、その翌日、父と母と私の3人で家族会議が開かれることになりました。

せっかく意気込んで飛行機を使ってまで面接に行ったにもかかわらず、私が「生まれてこなければ良かった」と口にしたからです。

父は私に聞いてきました。
「面接がうまくいかなかったのか?」
「うん。面接は絶対に落ちたと思う」そう私は言いました。

そして、しばらくの沈黙のあと、私はもごもごと何かを言いたいような仕草をし始めていました。

私は、ほんの1ヶ月前にモラハラ夫と別れたいと父と母に懇願して、あれだけの騒動を起こしてモラハラ夫と離れたにも関わらず、本当は別れることができていなくて、いまだに連絡を取り合っていて、またいつかは二人でやり直したいと思っている、という話を父と母に切り出そうかどうしようか迷っていました。

そんな私の様子に痺れを切らした母が「なんなの?どうしたの?はっきりしなさい」と少しイライラした様子で言ってきました。

私の目には自然と涙が溢れてきていました。

私は、意を決して話し始めました。

「実は、○○君とやり直そうと思っているの」

父と母の表情が驚きのものに一変しました。

「どうしてなの?あんなに別れたいって言って、お父さんとお母さんを呼んで騒動したじゃないの?」母が語気を強めに言ってきました。

私は怖々と言葉に詰まりながら、泣きながら続けました。

「あのあと、○○君と話しをしたの。それからは毎日連絡を取っていて、またやり直そうってなったの」

すると父は「だったら、お父さんは行った意味がなかったよね。連絡も取るなって言ったよね?あの日、お父さんは仕事を休んでわざわざ行ったんだよ。なんの意味もなかったじゃないか」と、こちらも語気を強めて言ってきました。

父と母が強く言うのも無理はありません。
私はあれだけの騒動を起こし、経済的にも大きな負担を父と母にかけさせてしまったわけですから。

それでも私は諦めず、モラハラ夫とやり直したいと懇々と父と母に説いたのです。

そして、そんな私に根負けした父と母が、私にひとつの条件を出しました。

その条件とは、モラハラ夫に私の実家に翌日にでも来てもらい、直接モラハラ夫から父と母に対して、私とやり直すための話をしてもらうというものでした。

私は、それまでの泣き顔から途端に笑顔になりました。

そんな私の笑顔を見た父が、私に対してこんなことを聞いてきました。

「○○(私の名前)、子どもにとって一番の親不孝は何だと思う?」

私はその問いに答えられず、父に答えを聞きました。
父の答えは「親よりも先に死ぬことだよ」というものでした。そして、こう続けました。

「だから、もう二度と”生まれてこなければ良かった”なんて言ってはいけないよ。お父さんとお母さんは、お前が生まれてきてくれたあの日、本当に嬉しくて幸せだったんだよ」

そう言って、私たち3人は笑顔でその家族会議を終えたのです。

その会議のあと、私はすぐさまモラハラ夫に電話をしました。

電話に出たモラハラ夫に、私は「○○君、やり直せるよ!」と、明るく弾んだ声で切り出しました。

一方で、モラハラ夫のテンションはとても低いものでした。
私は家族で話し合ったことをすべてモラハラ夫に伝えました。

私は、モラハラ夫に家族会議での話をしたら、すぐにでも飛んで私の実家に会いに来てくれるものだと考えていました。

しかしながら、モラハラ夫は私の予想に反して後ろ向きな発言ばかりでした。

「お前の実家に長時間移動とか無理だわ。体調が悪い。お前がこんなことしなければ良かったんだよ。また金がかかる」

私の実家に来たくないモラハラをし始めました。

それでも、その時の私は諦めることなく、モラハラ夫の移動費用やモラハラ夫が私の地元に来ている間の宿泊費用はすべて私が負担すること、父と母に認められればモラハラ夫はモラハラ夫がいま住んでいる実家から出ることができて体調も良くなると、モラハラ夫のメリットばかりを伝えました。

すると、モラハラ夫は電話口でようやく首を縦に振り、私の実家へ来てくれることになったのです。

モラハラ夫が私の実家に到着すると、母はモラハラ夫を笑顔で、父は少し厳しい表情でモラハラ夫を迎えました。

父はモラハラ夫に厳しい口調でこう言いました。

「君は、ここに何をしにきたのか言いなさい。」

すると、モラハラ夫はすぐに私とやり直したいとは言いませんでした。

モラハラ夫は、私の父と母に対して、自分はモラハラ男ではないと話し始めたのです。

モラハラ夫によるモラハラクリーン作戦でした。

モラハラ夫は、自分の印象が私の父と母に対して良いものではないことを理解していたので、まずはそのイメージを覆すことが先決と考えていたのです。

そのために犠牲にされたのは、私でした。

私は、モラハラ夫の自宅での仕事を邪魔し、隠れて勝手に夫婦の貯金に手を出して高額な買い物をし、しまいには家事もせずに休みの日には一日中寝ている女子力のないどうしようもない女だと仕立て上げられてしまいました。

元々お喋りが大好きなモラハラ夫です。そんなでっち上げ話しをするのは大得意で、気がつけば、私の父と母もそんなモラハラ夫のホラ話にまんまと引っかかっていました。

そして、モラハラ夫がひとしきり話をし終えて、父と母が私に言ったのが「○○(私の名前)、お前が全部悪い」でした。

モラハラ夫のモラハラクリーン作戦は大成功で幕を閉じたのです。

そして、父と母は、モラハラ夫に対してこんな提案をしたのです。
「○○君、この土地に住みなさい。君は自宅にパソコンがあれば仕事ができるんだろう。だったら、この家の近くに二人で家を借りて、そこでやり直せばいい。そうすれば居づらい実家からも離れられるよ」

モラハラ夫は、驚いた様子でしたが、その提案を受け入れて、近いうちに私の地元へと移り住むことになったのです。

こうして、私とモラハラ夫は、もういちど二人でやり直すための第一歩を踏み出したのです。

清武 茶々

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【著者情報】


家事部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:45028)

2007年 慶應義塾大学法学部 卒業

2009年 慶應義塾大学法科大学院法務研究科 修了

2010年に司法試験に合格し、東京都内の法律事務所を経て、2014年より弁護士法人グレイスにて勤務

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