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【33話】妻の本心

投稿日:
更新日:2024/11/01
小説版

絶望モラハラが毎日のように続いていた当時、モラハラ夫のモラハラにより、疲れを感じていたのは私だけではありませんでした。私にモラハラをしている当のモラハラ夫にも、徐々に疲れが見え始めていました。

日本には昔から「言霊」という言葉が存在します。「言霊」の解釈によると、マイナスの言葉を口にすると、マイナスのものを引きつけてしまい、その人自身もマイナスな感情を抱いてしまうそうです。

前回ご紹介していますが、この当時、モラハラ夫が頻繁に口にしていた言葉は「これからの二人の人生はどん底まで落ちていく一方だよ。二人で地獄に落ちるしかない」というものでした。

こんな言葉を毎日口にしているモラハラ夫は、徐々に生きる希望を失い始め「生きていても意味がない。死ぬしかない」という言葉を口にするようになってきたのです。

また、そんな言葉を毎日言われ続けている私も同様に「生きていても意味がない。自分みたいなだめな人間は死ぬしかないんだろう」と考えるようになってきていました。

そして、そんなある日のことでした。季節は、日に日に寒さが増してきた秋の終わりのことでした。

モラハラ夫が私に冬服が欲しいと言ってきました。

欲しい服を買ってあげれば、少しでもモラハラ夫の機嫌が良くなるのではないかと考えた私は、快くモラハラ夫の冬服を買いに出掛けることにしたのでした。

出掛けた先は、自宅から電車に乗って数駅の都心の大きなショッピングモールでした。

某有名ファストファッションの店で、モラハラ夫の服を買いました。

ちなみに、モラハラ夫の欲しいものはいつも私が買ってあげていたので、この服もいつものように私が買ってあげました。

買い物中、モラハラ夫はとても機嫌がよかったため、単純な思考の私は
「よかった。今日はこのままなんとか機嫌の良いまま、モラハラを受けずに一日を終えることができる」と考えていました。

振り返りますと、私はモラハラ夫と婚姻した当初から、モラハラ夫からモラハラを受けやしないか、モラハラの引き金を引きやしないかと、四六時中気を遣いながら生活していました。

そのため、その日は買い物で機嫌が良くなったため、モラハラを回避できるだろうと考えたのでした。

そして、更にモラハラ夫の機嫌を良くしようと、私はモラハラ夫の服の入った買い物袋を帰り道終始持ってあげることにしました。

ショッピングモールからの帰り道、モラハラ夫からの提案で、電車に乗らずに歩いて帰ろうということになりました。歩いて帰ると1時間程かかる道のりでしたが、私は、モラハラ夫の機嫌を損ねないようにモラハラ夫の提案をすんなりと受け入れました。

徒歩での帰り道、やはり、モラハラ夫はご機嫌でした。

このモラハラ夫はもともとお喋りが大好きな男だったので、昨今の私の行動がいかに愚かだったか、しかしながら、今後どうすれば改善出来るのか、この当時のモラハラ夫からすればかなり前向きな話をし始めたのです。

こんな時、私が今までしていたのは、ひたすらモラハラ夫の話に耳を傾け「うんうん、○○君の言うとおりだよね」と共感することでした。それをしていれば、モラハラ夫の機嫌を損ねることはありませんでした。

過去の教訓を活かし、この時も私は今までと同様にモラハラ夫の話に耳を傾け共感していました。

そして、歩き始めてから数十分が経過したときのことでした。

ほんの一瞬の出来事でした。

私が手に持っていた買い物袋が電信柱にわずかにかすったのです。

その瞬間、モラハラ夫の表情が一変しました。

おさらいしておきますが、モラハラ夫は潔癖症です。
なぜ、モラハラ夫の表情が一変したのかは、潔癖症が関係します。

モラハラ夫が私に言ってきました。

「お前、袋が電柱にかすっただろ。電柱は汚いんだよ。お前、見たことあるだろ。犬が電柱にオシッコをかけてるのを。電柱は不潔なんだよ。そんな不潔なところに俺の大事な服をかすりやがって。」

ちなみに、もう一度言いますが、かすったのは袋がほんの少しわずかにで、服は一切触れていません。

けれども、こうなってしまったらもう手が付けられないことは、皆様もご承知のことでしょう。

あれほどまでに気を遣っていた私でしたが、一瞬でモラハラスイッチを入れてしまったのです。

そして、モラハラ夫はこうも言いました。

「やっぱりお前は俺の嫌がることばかりしてくる。やっぱり俺たちはもうダメだ。生きてても何も良いことない。」

私は、必死にその場を凌ごうと、咄嗟にこんな提案をしました。

「この服、私が今から交換してもらいに行ってくる。○○君、先に家に帰ってて。」

するとモラハラ夫は、「わかった。そうして」とすんなり私の提案を受け入れたのです。

ところが、その後に出てきた言葉は、とうてい私の提案を受け入れたものではありませんでした。

「もういいよ。お前が返品しに行ってる間に俺は家に帰って首を吊ろうと思う。もういいよ。とりあえず返しに行って。」

そう言って、モラハラ夫は足早にその場から自宅の方向へ歩き出したのです。

私は、その場に呆然と立ち尽くしてしまっていました。

そして、次の瞬間に私が思ったことは、人として決して抱いてはいけない感情でした。
しかしながら、その当時の私の本心だったと思います。

「あ、よかった。これで私も楽になる。あの人から解放される。」

モラハラ夫がこの世からいなくなることを喜ばしいと思う悪魔のような感情でした。

けれど、すぐさまそんな感情は良くないと、自分を律したのですが、その時の私はすぐにモラハラ夫を追いかけることができなかったのです。

私は、その場で立ち往生し、考えを巡らせていました。

そして、おもむろに携帯電話を取り出した私は、電話帳の「母」を検索していました。

「母」の電話番号を表示し、発信ボタンを押そうとしていました。

私は母に助けを求めようとしていたのです。

何度も何度も発信ボタンを押そうと試みたのですが、私は最後の最後まで発信ボタンを押すことができませんでした。

母に助けを求めてしまえば、私たち夫婦の関係が壊れてしまうことを危惧したのです。

どれほどの時間、その場に立ち尽くしていたのかわかりませんでした。

結局、私はそのままモラハラ夫の服を店に交換しに行くこともなく、不潔な電柱にかすった買い物袋を手にぶら下げたまま自宅に戻ったのです。

自宅のドアを開けると、そこにはモラハラ夫がいました。

首を吊り、変わり果てた姿には、なっていませんでした。

そして、その後は、いつものとおり。
夜中まで続く、これまでよりも更にエスカレートした絶望モラハラが待っていたのでした。 

清武 茶々

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【著者情報】


家事部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:45028)

2007年 慶應義塾大学法学部 卒業

2009年 慶應義塾大学法科大学院法務研究科 修了

2010年に司法試験に合格し、東京都内の法律事務所を経て、2014年より弁護士法人グレイスにて勤務

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